太平洋戦争 雑学

『電文』|太平洋戦争で使用された有名な電文5選

太平洋戦争では無数の電文が飛び交いました。
そのなかから、個人的に好きで有名な5つの電文(暗号文や隠語含む)をご紹介します。


1. ニイタカヤマノボレ一二〇八

太平洋戦争の開戦を告げる電文として、とても有名ですね。
1941年(昭和16年)12月2日、日本海軍連合艦隊司令部から発信されました。

万が一暗号文が解読されても大丈夫なように、「日米開戦が決定、全艦隊は予定通り作戦を実施せよ」という意味の隠語として「新高山(ニイタカヤマ)」が使用されました。

後半の「一二〇八(ヒトフタマルハチ)」はそのまま日付の12月8日を指しており、「Xデー(作戦実施日)を12月8日(日本時間)」の意味です。

ちょっと豆知識①

「新高山」は、現在の台湾中心部にある「玉山(ぎょくざん)」のことで、標高3,952mあり、台湾で最も高い山です。
富士山の3,776mよりも高く、日本統治時代には日本一標高の高い山でした。
台湾併合後に、富士山よりも高い「新しい日本最高峰」の意味で、明治天皇より新高山と名付けられました。

ちょっと豆知識②

開戦決定を知らせる隠語として、日本海軍は「ニイタカヤマノボレ一二〇八」を採用しましたが、日本陸軍は「ヒノデハヤマガタトス」でした。
こちらも「ヒノデ(日の出)」が開戦決定を、「ヤマガタ(山形)」が12月8日(作戦実施日)を指しています。

日本陸軍は作戦実施日の日付を、地名の頭文字から取っていたようで、1日=広島、2日=福岡、3日=宮崎、4日=横浜、5日=小倉、6日=室蘭、7日=名古屋、8日=山形=、9日=久留米、10日=東京、の予定だったらしく、日本海軍よりもお洒落な感じです(かつ暗号面でも強固かと)。

ちなみに、日米和平交渉に進展があって作戦中止となった場合、日本海軍は「トネガワワタレ」を、日本陸軍は「ツクバヤマハハレ」を打電する予定でした。


2. 我に追いつくグラマンなし

彩雲
Nakajima C6N Saiun ('Painted Cloud') "Myrt". The Nakajima C6N Saiun was a carrier-based reconnaissance aircraft used by the Imperial Japanese Navy Air Service in World War II.

日本海軍の艦上偵察機「彩雲」が、偵察活動中に追撃してきたF6Fヘルキャットを振り切ったときに発した電文です。

日本海軍が保有していたどの戦闘機よりも優速で、アメリカ軍の戦闘機と比較しても引けを取らない速度を発揮できました。
太平洋戦争中盤以降、敵戦闘機が待ち受ける敵中に飛び込んでいく偵察は命がけだったでしょうね。敵戦闘機は自軍の戦闘機よりも速い訳ですし。
その中で敵戦闘機に補足・追撃されるも振り切ったことは、コクピット内は興奮の坩堝と化したことでしょう。

【参考:最高速度】
*零式艦上戦闘機五二型:565km/h(高度6,000m)
*F6F-5 ヘルキャット:611km/h(高度7,132m)
*彩雲一一型:609km/h(高度6,100m)

ちょっと豆知識③

ちなみに対応する暗号符がなかったため平文で打電し、帰投後に上官から「余計な電文を打つな」と叱られたというお茶目なエピソードもあったりします。

参考: 我に追いつくグラマンなし~再現モールス~


3. 全世界は知らんと欲す(The World Wonders)

WHERE IS RPT WHERE IS TASK FORCE THIRTY FOUR RR THE WORLD WONDERS
第34任務部隊は何処にありや、何処にありや、全世界は知らんと欲す

レイテ沖海戦時、小沢治三郎中将が指揮する第三艦隊のおとり(陽動)作戦にひっかかり、担当海域を逸脱したハルゼー艦隊を呼び戻すためにニミッツ提督が打った電文です。
受け取ったハルゼー提督が怒り狂ったことで、こちらも有名な電文です。

電文の原文は以下のとおり。

TURKEY TROTS TO WATER GG FROM CINCPAC ACTION COM THIRD FLEET INFO COMINCH CTF SEVENTY-SEVEN X WHERE IS RPT WHERE IS TASK FORCE THIRTY FOUR RR THE WORLD WONDERS

引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/The_world_wonders


本来の本文は「第34任務部隊は何処にありや、何処にありや(WHERE IS RPT WHERE IS TASK FORCE THIRTY FOUR)」のみでした(文中の「RPT」は「Repeat(繰り返す)」の略語)。

暗号文を打つ際に、意味のある語句だけだと敵に解読されやすくなるため、本文の前後にあえて無意味な語句をつけ加える手順になっていました。
今回だと文頭の「TURKEY TROTS TO WATER 」と文末の「THE WORLD WONDERS」が該当しますね(「文中にある「GG」「RR」が区切りの意味)。

「全世界は知らんと欲す(THE WORLD WONDERS)」の部分は省略されるべきものが、「本文から文章が繋がっているように読めるため、担当士官が省略せずにそのままハルゼー提督に提出してしまった」のが経緯です。

ちょっと豆知識④

このやらかしは、ハルゼー提督が座乗していた旗艦「ニュージャージ」の担当暗号士官のみが行っており、受け取った他の全ての担当暗号士官は正しく対応(問題となった末文は削除して提出)したそうです。
解読した側にも問題はありますが、間違いやすい文句を挟んだ発信者側の暗号士官にも問題はあると思います(若い少尉候補生だったとのこと)。当然、後に譴責されたそうです。


4. サクラ・サクラ

ペリリュー島の戦いで日本軍守備隊が玉砕を伝える、最期に打電した電文の一部です。

1944年(昭和19年)9月15日から11月27日にかけて行われた、ペリリュー島(現在のパラオ共和国)を巡る戦いです。
日本軍守備隊約10,000名に対し、アメリカ軍上陸部隊約50,000名かつ洋上・航空支援ありという戦力差がありながら、アメリカ側は4日間で攻略予定のところ、最終的に2ヶ月半を要することになりました。

圧倒的な戦力差があるにもかかわらず、第1海兵師団を壊滅・後退させるなど日本軍側の善戦ぶりもさるものながら、現地指揮官「中川州男(なかがわくにお)」大佐(当時)のペリリュー島民に対する扱い(戦闘前に全員疎開させ、島民に死傷者は出なかった)なども知ると、この「サクラ・サクラ」が文字以上に美しく、尊いものに感じます。

「帝国軍人が、貴様ら土人と一緒に戦えるか!」


5. 後世特別な配慮を

1945年(昭和20年)6月6日20:16、日本海軍 沖縄方面根拠地隊「大田實(おおたみのる)」司令官が沖縄戦で自決する直前に、沖縄戦の惨状と沖縄県民の献身を綴った電文です。

本来であれば沖縄県知事が報告するような内容ですが、県にも陸軍(第32軍)司令部にも通信能力がないと判断し、大田司令官が自主的に発信したとあります。

他の電報にあるような美辞麗句(天皇陛下万歳など)がなく、ただただ沖縄県民の実情を伝える内容となっていて、沖縄戦の凄惨さが重く心に響き、かつ太田司令官の人柄が伝わってきます。

▼全文は以下から読むことができます(リンク先:weblio辞書)
https://www.weblio.jp/wkpja/content/%E5%A4%A7%E7%94%B0%E5%AE%9F_%E6%B5%B7%E8%BB%8D%E6%AC%A1%E5%AE%98%E5%AE%9B%E3%81%AE%E9%9B%BB%E5%A0%B1


さいごに

電文(暗号文)は決められた符号が多く、オリジナリティに富んだものは多くありません。
ただその背景を理解していくと、字面以上に文章に込められた意味を感じられ、想いが一層深くなります。

また、「ヒノデハヤマガタ」「サクラ・サクラ」など、日本陸軍が採用した文言はお洒落な印象です。
日本海軍の「一二〇八」は、前段の隠語が解読されなくても、12月8日になにかありそうと思われますよねw

今回ご紹介した5つ以外にも、またなにか面白そうな電文を見つけたらご紹介していきたいと思います。

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てんこ

40代シンパパ。マーケティングリサーチャー。小学校高学年で光栄「三国志」にハマり、「提督の決断」にも手を出し、高校時代から架空戦記が愛読書。戦記物が大好き。歴史大好き。バンドにもハマって今でもBassが心の友。空き時間で資格勉強中(取得済:メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種・Ⅲ種)。老後を見据えた趣味として、歴史に関する考察などを書いていきたいです。

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