旧日本軍の軍用機といえば「零戦(ぜろせん/れいせん)」と答える人が多いでしょう。
「零戦」という名前も実は略称で、正しく(制式名称)は「零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)」。
「零戦」も登場から終戦まで同じものではなく、大小様々な変更や改良が施され、多数の派生型が存在しています(大凡10種類以上)。
また零戦と同様に「九九式艦上爆撃機」など頭に「数字」が入っているものと、「紫電」「瑞雲」、陸軍の「隼」「疾風」など、固有名称がついているものもあります。
どんな基準で制式名称がつけられているの?ということで、今回は旧日本海軍の軍用機「命名規則」について振り返ってみようと思います。
日本海軍機の命名規則
冒頭でお話した「零戦」を例にしてお話しますね。
今回ご登場いただくのは真珠湾攻撃時に使用された機体「零式艦上戦闘機二一型(A6M2b)」です。
この名前を大きく分けると、次の三つが組み合わさっています。
制式名称:零式艦上戦闘機
「零式艦上戦闘機二一型(A6M2b)」の『零式艦上戦闘機』の部分が制式名称を表しており、この部分が更に前後2つに分類されます。
- 採用年=零式
- 機種名=艦上戦闘機
「①採用年」は時代の流れで変わっています。
- 1929年(昭和4年)以前
- 元号の年を採用
例えば、日本海軍初の国産艦上戦闘機「一〇式艦上戦闘機」は、大正10年に採用
- 元号の年を採用
- 1942年(昭和17年)以前
- 皇紀年号下二桁+式+機種名
今回の零戦のように、「皇紀2600年+式+艦上戦闘機」
- 皇紀年号下二桁+式+機種名
- 1942年(昭和18年)以降
- 固有名詞
例えば、戦闘機(甲戦)は『風』(強風、烈風など)、偵察機は『雲』(彩雲、瑞雲など)、攻撃機は『山』(天山など)など
- 固有名詞
日本海軍期の固有名詞 例
機種名 | 命名基準 | 例 |
---|---|---|
艦上戦闘機(甲戦) | 風 | 強風・烈風・陣風、など |
陸上戦闘機(乙戦) | 電・雷 | 雷電、紫電、震電、天雷、など |
夜間戦闘機(丙戦) | 光 | 月光、極光、など |
偵察機 | 雲 | 彩雲、紫雲、瑞雲、景雲、など |
爆撃機 | 星 | 彗星、流星、銀河、など |
攻撃機 | 山 | 天山、連山、深山、南山、富嶽、など |
哨戒機 | 海・洋 | 東海、大洋、など |
輸送機 | 空 | 晴空、蒼空、など |
練習機 | 草木 | 紅葉、白菊、など |
特殊攻撃機 | 花 | 桜花、橘花、など |
「②機種名」は特に捻りはなく、そのまま飛行機の機種を示しています。
・艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上爆撃機、水上偵察機、陸上戦闘機、練習機などです。
ちょっと豆知識①
「皇紀」とは、神武天皇即位の年を元年に定めたもので、紀元前660年が皇紀元年です。
西暦に660年をプラスしたものが皇紀の年に当たり、1940年+660年=2600年。
「零戦」は皇紀2600年(=西暦1940年)に採用された艦上戦闘機、ということです。
改修型名称:二一型
「零式艦上戦闘機二一型(A6M2b)」の『二一型』の部分が改修型名称を表しており、こちらも前後の2つに分類されます。
- 1942年(昭和17年)以前
- 大きな改修があった場合は「式」のあとに「号」を、小改修の場合は「機種名」のあとに「型」をつける
今回の零戦も採用当初は「零式一号艦上戦闘機二型」でした
- 大きな改修があった場合は「式」のあとに「号」を、小改修の場合は「機種名」のあとに「型」をつける
- 1942年(昭和18年)以降
- 「号」が廃止され、今回例の二桁数字の「型」の呼称に
今回の零戦はこちらで、上一桁が「機体の改修」を、下一桁が「エンジンの変更」を意味しています
- 「号」が廃止され、今回例の二桁数字の「型」の呼称に
改修型名称の違い
零戦にも、二一型、三二型、二二型、五二型などがあります。
例えば、三二型と五二型の違いは、上一桁が違うので「機体の改修」が行われており、下一桁は同じのため「エンジンが同じ」です。
また、二一型と二二型は、上一桁(機体)が同じで下一桁(エンジン)が違うため、同じの機体に違うエンジンを載せたことになります。
※例えば、同じ機体でも異なるエンジン載せるために改造する必要があるため、厳密に全く同じという訳ではありません
機種番号:零式艦上戦闘機二一型(A6M2b)
最後に、「零式艦上戦闘機二一型(A6M2b)」のカッコ内に入れていた機種番号についてのお話です。
基本的には4桁の英数字で構成されており、順番に「機種記号」「計画番号」「設計会社記号」「何番目の改修型」です。
今回例の「A6M2b」の「b」の部分は、甲乙丙の考え方と同様に、小改造の場合に末尾に英子持ちが付与されています。
- 機種記号=A
艦上戦闘機 - 計画番号=6
6機種目 - 設計会社記号=M
三菱重工業 - 何番目の改修型=2
2番目の改修型 - 小改造の有無=b
小改造あり(主に主翼折りたたみ機構や着艦フックなどを付与)
▼日本海軍機の「機種記号」「設計会社記号」一覧
機種記号 | 機種名 |
---|---|
A | 艦上戦闘機 |
B | 艦上攻撃機 |
C | 偵察機 |
D | 艦上爆撃機 |
E | 水上偵察機 |
F | 観測機 |
G | 陸上攻撃機 |
H | 飛行艇 |
J | 陸上戦闘機 |
K | 練習機 |
L | 輸送機 |
M | 特殊攻撃機 |
N | 水上戦闘機 |
P | 爆撃機 |
Q | 哨戒機 |
R | 陸上偵察機 |
S | 夜間戦闘機 |
MX | 特殊機・特殊滑空機 |
設計会社記号 | 設計会社 |
---|---|
A | 愛知航空機 |
H | 広海軍工廠 |
K | 川西飛行機 |
M | 三菱重工業 |
N | 中島飛行機 |
Ni(後にPに変更) | 日本飛行機 |
W | 渡辺鉄工所/九州飛行機 |
G | 東京瓦斯電気工業(日立重工業) |
I | 石川島重工業 |
P | 日本飛行機 |
S | 佐世保海軍工廠 |
Si | 昭和飛行機 |
Y | 横須賀海軍工廠/空技廠 |
Z | 美津濃 |
最後に
1942年までの正式名所は、数字や記号の羅列になっています。
初めて見ると基準が分かりにくいですが、ひとつひとつ紐解いていくと、結構シンプルな基準だと思います。
簡単でも理解した上で資料などに触れていくと、「あ、このときは正式採用時から●回改修された機体を使っていたんだなー」と、同一機種名でも同じではないことが分かって面白いです。
1942年以降は固有名詞に変わりますが、改修番号以降は同じです。
正式採用年度がパッと見で分からなくなってしまいますが。
固有名詞での名称も規則性があり、また一つ一つの名前が美しいですね。
兵器の名前ですが、日本語にはこんなに美しい言葉があるんだなと、再発見しました。
機体だけではなく、機種名の美しさも語り継がれてほしいと思います。