太平洋戦争開戦時、日本海軍は大小合わせて9隻の航空母艦を保有していました。
航空母艦という言葉の他に、「空母」「正規空母」「軽空母」という言葉を聞いたことがあると思います。
「空母」は航空母艦の略称ですが、なにが「正規」でなにが「軽」なのか、その違いについて調べていきたいと思います。
日本海軍の類別
日本海軍の正式な艦艇類別において、「正規空母」「軽空母」という分類はありません。
全て「航空母艦」の呼称で統一されています。
当時、航空母艦以外の呼称で用いられていたものは、主に次の2パターン。
- 「大型空母」「中型空母」「小型空母」
- 「正規空母」「改造空母」「特設空母」
①は、大きさによる違いのようで分かりやすそうですね。
②は、「正規空母」との対比が「軽空母」ではなく、「改造空母」「特設空母」となっています。
「改造空母」「特設空母」とは何かを見ていきましょう。
「改造空母」「特設空母」とは
元々「航空母艦」で統一されていたのは前述の通りです。
これ以外の呼称が用いられるようになったきっかけは、2つの海軍軍縮会議(ワシントン海軍軍縮会議とロンドン軍縮会議)です。
1922年のワシントン海軍軍縮会議で、日本海軍の航空母艦の合計基準排水量は81,000トンに定められました(米英日の比率:5・5・3)。
このとき日本では「鳳翔」(八六艦隊案)が就役しており、続く八八艦隊案において「翔鶴型(12,500トン)」2隻を建造の予定でした。
(太平洋戦争で登場する翔鶴型とは別計画です)
しかし同条約の結果、割り当てられた空母の排水量の関係から、建造中止となった巡洋戦艦「天城」「赤城」を空母に改装するのと引き換えに、翔鶴型2隻の建造は中止(天城は関東大震災の影響を受け廃艦。代艦として「加賀」)。
この条約では単艦基準排水量「1万トン未満」の航空母艦は対象外だったため、1万トン未満の空母を大量建造し、米英との空母戦力差を埋めようとして計画・建造開始されたのが「龍驤」です。
しかし1930年のロンドン海軍軍縮会議において、1万トン未満の空母も合計基準排水量に含まれることになり、小型空母を大量建造する目的が消失します。
(建造途中だった「龍驤」は計画を変更し、1万トン超の空母として就役。恐ろしくトップヘビーの艦に)
更に、この条約をかいくぐるため、「空母への改装を前提とした設計で、制限外の補助艦艇、商船を建造しておき、いつでも空母に改造できる状態」を作る方針を取りました。
ここで、最初から空母として設計・建造・完成した空母と、空母以外の軍艦や商船から改造された空母を区分するために、「航空母艦」以外の呼称が用いられるようになったのです。
類別と該当艦一覧
- 正規空母:最初から空母として設計・建造され、完成した艦
- 鳳翔、龍驤、蒼龍、飛龍、翔鶴型(翔鶴、瑞鶴)、大鳳、雲龍型(雲龍、天城、葛城)
- 改造空母:空母以外の軍艦から改造された空母(カッコ内は改装前)
- 赤城(天城型巡洋戦艦)
- 加賀(加賀型戦艦)
- 祥鳳・瑞鳳(高速給油艦→剣埼型潜水母艦)
- 龍鳳(潜水母艦「大鯨」)
- 千歳・千代田(千歳型水上機母艦)
- 信濃(大和型戦艦)
- 特設空母:商船から改造された空母(カッコ内は改装前)
- 隼鷹・飛鷹(大型高速客船「橿原丸」「出雲丸」)
- 大鷹・雲鷹・冲鷹・神鷹・海鷹(新田丸級貨客船「春日丸」「八幡丸」「新田丸」、「シャルンホルスト」「あるぜんちな丸」
大きさ、運用能力による分類
建造の生い立ち以外に、人事上による区分もあったようです。
例えば海軍省では「赤城」「加賀」の竣工にあわせて「排水量25,000トン以上の空母の艦長は、戦艦の艦長と同じく、大佐の特別俸とする」と定めらていたそうです。
これに該当する大型空母は前述の「赤城」「加賀」の他、「翔鶴」「瑞鶴」「大鳳」「信濃」の6隻です。
「赤城」「加賀」は戦艦や巡洋戦艦の船体を流用して建造された艦のため、厳密には正規空母の定義には当てはまりませんが、いずれも大型で強力な航空戦力を備えていたことから、正規空母に分類されることが殆どです。
類別と該当艦一覧
- 正規空母
- 大型空母:赤城、加賀、翔鶴・瑞鶴、大鳳、信濃
- 中型空母:蒼龍、飛龍、雲龍・天城・葛城
- 小型空母:鳳翔、龍驤
- 改造空母・特設空母
- 大型空母:(該当艦なし)
- 中型空母:飛鷹・隼鷹
- 小型空母:祥鳳・瑞鳳、龍鳳、千歳・千代田、大鷹・雲鷹・冲鷹・神鷹・海鷹
米海軍の類別
アメリカ海軍も元々は「航空母艦(Aircraft Career。船体分類記号=CV)」の類別で統一されていました。
日本海軍同様に、空母以外の軍艦や商船から改造された空母を区分するために、「航空母艦」以外の呼称が用いられるようになります。
商船改造空母の登場
1941年から、商船の船体を利用した「ロング・アイランド」「チャージャー」「ボーグ級」「サンガモン級」が、小型・低速の空母「航空機搭載護衛艦(Aircraft escort vessel。船体分類記号AVG)」として計画、建造・就役していきます。
1942年8月20日に「補助航空母艦(Auxiliary aircraft carrier。船体分類記号=ACV)」へ改称。
大型空母の登場と類別整理
その後も1943年7月15日に整理が図られました。
従来の「航空母艦(CV)」のうち、満載排水量5万トン以上の艦(ミッドウェイ級)は「大型航空母艦(Large aircraft carrier。船体分類記号=CVB)」に類別変更。
一方、巡洋艦の設計を流用した満載排水量2万トン以下の艦(インディペンデンス級・サイパン級)は「軽空母(Light aircraft carrier。船体分類記号=CVL)」に類別変更。
前述の補助航空母艦(ACV)についても、「護衛空母(Escort carrier。船体類別番号=CVE)」と改称しました。
1943年7月15日以降の類別
- 航空母艦(CV)
- ラングレー、レキシントン級、レンジャー、ヨークタウン級、ワスプ、エセックス級など
- 大型航空母艦(CVB)
- ミッドウェイ級
- 軽空母(CVL)
- インディペンデンス級、サイパン級など
- 護衛空母(CVE)
- ロング・アイランド、チャージャー、ボーグ級、サンガモン級、カサブランカ級など
最後に
子供の頃から「提督の決断」シリーズを楽しんでいたので、「正規空母」「軽空母」の分類は馴染みがあって、それぞれ次の印象でした。
- 正規空母=50機以上を運用できる、速力も早い船が多い
- 軽空母=50機未満の運用能力で、速力が遅め
色々な本を読んでいく中で、正規空母はともかく「軽空母」の呼称はあまりない記憶があり、今回改めて調べてみました。「改造空母」「特設空母」の呼称のほうがあった記憶があったように思います。
例えば
*隼鷹は飛鷹は元々日本郵政の商船だった
*大型客船(27,000トン強)で蒼龍、飛龍に準じる能力を保有
*日本郵船に助成金を出して建造させ、途中で没収して空母に改造した
(言い方に語弊があります)
*商船から改造したから「改造空母」
正規空母・軽空母の分類でも特に問題ないと思っていますが、改造空母・特設空母という分類も理解できると、空母たちの生い立ちが分かってより愛着が湧きますね。